駆け引き


「ふざけんな!二度と近よんじゃねぇ!!」
ハンド部専用グランドに大きな声が響いた。
そこにはハンド部内で有名な陣内伊吹(高二)と高森秋葉(高一)が向かい合っていた。
今叫んだのはどうやら陣内のようだ。
「どうした?」
そこに部長の滝本琴澄(高二)が仲介に入った。
高三の先輩方は引退したので今は二年生が中心で部活動が行われている。
「こいつが俺の首にキスをしてきやがったんだ!!」
そこにいた人全員が固まってしまった。
「えっっ・・・?」
滝本のいつもの頭の回転のよさも今だけは役に立たない。
「良いじゃないですか先輩。首にキスくらい。」
長身の高森は一回りくらい小さな陣内に抱きつきながら言った。
「くっつくな!離れろ!!」
陣内は力いっぱい高森を押しやって、滝本の後ろに隠れた。
盾にされた滝本はこのとき漸く、自分が余計なことに関わったことに気がついた。
「あ、俺先生に呼ばれてたんだった。」
と、自分なりに良い言い訳を思いついたと口に出してその場を高速的に逃げ出した。
「滝本!!」
陣内の訴えもむなしく再び高森と対峙する。
「先輩・・・」
高森はじりじりと陣内に近づいていく。
それと同じくらいに陣内はじりじりと後退りした。
「高森!!これ以上近づくと殴るぞ!!」
精一杯の威嚇だった。
高森が陣内より強いのは本人達には分かりきっていることだった。
じりじりと後退すると最後には限界があると言うもので陣内はフェンスと高森に挟まれた。
周りのギャラリーは興味津々といった感じで固唾を呑んで見守っている。
その静かさに唾を飲み込んだ音が聞こえるほどだ。
高森は陣内の顎を掴んで上を向かせた。
「先輩。ここでキスされたくなかったら俺と付き合ってください。」
唇が触れそうなほど近いところで囁かれる。
息が唇にかかり、陣内は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
周りで部活の仲間達がじっと見ている。
「・・・その二択しかないのか?」
ダメもとで聞いてみた。
「うん。」
即答である。
やっぱりなと心の中で諦め交じりに溜息をついた。
そして最後の質問をする。
「ここでキスしたら二度としないか?」
「そんなこと約束できるわけないじゃないですか。」
にっこりと邪気のない顔で笑った。
つまりはキスすると言うことだ。
それならば人に見られない分付き合ってやったほうがましかもしれないと陣内は考えた。
「わかった。付き合ってやるから離れろ。」
高森の肩を押し返した。
素直に退くと高森は満面の笑みでこう言った。
「部活が終わったら一緒に帰りましょうね。」
そして陣内の返事を聞かずに去っていった。

「先輩帰りましょう。」
すっかり帰る気満々の高森はいやそうな顔をしている陣内にお構いなしで接してくる。
約束したことなのだからと言われしぶしぶと高森と帰ることにした。
「あ〜マジで先輩と付き合えるなんて幸せですよ。」
脅迫したくせに。
そう考え陣内は溜息を吐いた。
「付き合ってくれたということは先に進んでもいいってことですよね。」
高森が言っていることがすぐには分からなかった。
「いっぱいキスしていっぱいエッチしましょうね。」
そう言うと頬にキスをした。
「あ〜!!」
そうなのだ。
付き合うということはそういうこともあるわけで・・・。
「別れるとか・・・言っちゃダメか?」
陣内は上目遣いで高森に訴えた。
高森はそんな陣内を見て感極まったようにギュッと抱きしめて言った。
「ダメです。二度と放しません。」
逃げたらどうなるか・・・。
逃げられないことを悟った・・・ような気がした。

END
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