ピーチサイダー


「あっちー。こんなときはアイス食いてぇよな。なぁ越前。」
「そうっスね。」
桃城は制服の襟をパタパタさせて服の中に風を送り込んでいる。
対して越前は帽子を扇いで団扇代わりにしていた。
二人が現在いる場所は、部室の近くにある木の下だ。
どうして二人が木の下にいるかというとのは、人と待ち合わせているからだ。
夏の暑い日差しの中、炎天下で待っているのはつらいので日陰になっているこの場所で待ち合わせということになった。
ちなみにお互い別の人物と待ち合わせている。
桃城は菊丸、越前は手塚を待っている。
今、部室では3年レギュラーだけに顧問の竜崎先生からの話があっている。
そのため、部活が終わって着替え終わるとすぐに3年レギュラー以外の部員は全員追い出されてしまった。
そして今に至っているのである。
「3年だけに話ってなんだろうな。気になるよな?」
「そうっスね。」
「あーあ、早く終わんねぇかな。」
夏の暑さについつい愚痴が零れてしまう。
日陰といっても暑いのには変わりなく、じっとしていても汗が吹き出す。
日本特有のジメジメした暑さにイライラは募る。
追い出されてからどれくらい時間がたっただろうか?
「あ、部長。」
越前がそう呟いた。
部室の方を見ると手塚や不二、それに河村が出てきていた。
どうやら菊丸はまだのようだ。
手塚の姿を見つけた越前は軽く桃城に挨拶すると手塚の元に向かっていった。
「菊丸先輩はまだか・・・まったく自分から今日部活終わったら遊ぼうって誘ってきたくせに遅ぇよな。遅ぇーよ。」
桃城は再びぶつぶつと愚痴を呟いた。
ふと部室を見ると今度は乾が出てきたところだった。
ということは残るは菊丸と大石、そして竜崎先生ということになる。
このメンバーからするとおそらくダブルスについての話をしているのだろう。
もしかしたらもう少し遅いかもしんないなと木の根元に座り込んだ。
そしてこの暑さから少しでも逃れようと目を瞑り涼しい場所やものを想像する。
そのとき、近くで人の気配を感じた。
そっと目を開けてその人物を確認する。
陰になって顔がよくみえないが紛れもなく乾だった。
「乾先輩?」
「菊丸から伝言。”もうちょっとで終わるから、もう少し待ってて”だそうだ。・・・これは俺から。」
そう言って桃城にサイダーの缶を渡した。
「ありがとうございます!マジうれしいっス。」
地獄に仏とさも言いたそうな顔でそれを受け取る。
さっそくタブを開けると、炭酸だということもお構いなしといった様子で勢いよく口に流し込み、咽喉を潤した。
「ぷはぁー!生き返ったっス!」
「そうか?それは良かった。」
乾は突っ立ったままそう言った。
桃城がおいしそうに飲むのを眺めているだけだ。
「あ、乾先輩も飲みます?」
乾から見つめられ、桃城は欲しいのかなと思うと乾から貰ったものだというのにその本人に勧めた。
「あ、いや、じゃあ俺はこっちで。」
桃城の勧めに僅かに考えると、差し出された缶を取らずに桃城の腕を取ると自分のほうに引っ張った。
自分も桃城に近づくと顔を寄せ、桃城の唇に自分のそれを重ねた。
それは軽いもので、桃城が何をされたか理解しないうちにチュッと音を立てて離れていった。
間近に乾の顔があるため、いつもは眼鏡で見えない目が優しく笑っているのが見えた。
「ごちそうさま。じゃ、また明日な。」
乾はそう言うと、まだ呆然としている桃城をそのままにさわやかにその場を去っていった。
乾の後姿が大分小さくなった頃、頭が機能し始めた桃城はパクパクと口を動かした。
「な・・・?なっ!?」
乾がなんでこんなことをしたかわからず暫く頭は混乱していた。
「ごめんごめん。遅れたにゃー。」
乾にキスされたことで気づかなかったがどうやら話が終わったらしい菊丸は桃城に話しかけた。
「ん?桃どうしたの?顔赤いよー?」
後輩の異変に気づき、顔を覗き込む。
夏の暑さのせいだとは言い切れないほど赤かった。
桃城は菊丸に指摘され更に顔が熱くなった。
「な、なんでもないっスよ。行きましょー。」
桃城は木の根元から腰を上げると誤魔化すように言って、菊丸の前を歩いた。
「そう・・・?あ!桃、良いもん持ってんじゃん。ちょーだい。」
菊丸の言う良いものとは乾から貰ったサイダーの缶だった。
「え、あ・・・。」
あからさまに口篭ってしまい、菊丸に怪しがられた。
「どーしたのかな?そのサイダーの缶に何かあるのかにゃー?」
菊丸は桃城の反応を楽しんでいるようだ。
「な、なんでもないっスよ。」
「じゃあ何でそんなに顔が赤いのかにゃー?」
鋭い指摘に声が出せなくなった。
「・・・っ、日射病っスよ。ずっと陽の下にいたから。」
菊丸は疑うような目で桃城の顔を覗き込んだ。
「ホントかにゃー?」
「ホントっス!」
そう言って菊丸の目から逃れるように走り出した。
「あ、逃げた!怪しいぞー!ほんとのことを先輩に包み隠さず言いなさい!」
「嫌っスよ!」
「待てー!」
その後こんなやり取りが暫く続いた。
菊丸のしつこさに桃城が根を上げるのは時間の問題だった。


---END---

桃城受けにはまったときに衝動で書いたものです。
あるサイト様の影響を受けました。前々からリョ桃派だったりしたんですが、
その、あるサイト様にて乾桃を見るや否や「良い・・・v」と惚れました。
菊桃も良いですねv可愛がられる桃とか大好物です!
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます!


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