表裏一体 2


ギラギラした金髪をワックスでしっかり固め、制服を着崩した大月はすでに屋上で待っていた。
よく見ると両耳にゴツイピアスを付け、首や手首などの至る所に装飾品を付けている。
おしゃれのつもりなのかいつもサングラスをしていて表情はよくわからない。
「返事決まった?」
外見よりもしっかりした口調で薄い唇から低い声が発せられた。
今の俺の心境は蛇に睨まれた蛙状態だった。
「あ・・・。」
断ろうと思っているのに声にならない。
空気が喉にへばりついたように感じた。
「怖がるなよ。」
その言葉に体がビクッと反応した。
「別に今から殴ろうってわけじゃないんだしさ。」
まるで俺の心を見透かされてるようだ。
ふと周りを見遣るとどうやら仲間はいないらしい。
屋上のドアも鍵が掛けられていない。
「あの・・・一つ聞いていいですか?」
俺は思い切って聞いてみることにした。
「これは罰ゲームで、それでこんなことしているんですか?」
暫し沈黙が続く。
その間俺はビクビクだった。
「あ、そっか、そうだよな。いきなり俺みたいなやつから告られたらそう思うのも当たり前だよな。」
大月は一人納得している。
「じゃあさ、どうやったら俺のこと信じてくれる?」
突然そんなことを言い出してきた。
「えっ?」
「このままだったら信じてもらえずに振られそうだからさ。」
にこっと笑って続けた。
「振られるにしても好きなやつには信じてもらいたいじゃん。」
そんなこと言われてもって感じだがこれはチャンスかもしれない。
「じゃあ、その不良な格好を止めてもらえませんか?」
これならどっちにしても振り易くなる。
ずっと続けてきた格好を今更変えることはできないだろう。
変えてこなかったら「信じられないから」と断ればいい。
例え変えたとしても少しは怖くなくなって振りやすくなるに違いない。
罰ゲームなら仲間の笑いものにされるのも必須だ。
「わかった止めてくるから信じろよ。」
「はい・・。」
そう言って今日は別かれたのであった。
その次の日。
学校ではちょっとした事件になっていた。
超が付くほどの不良の大月篤が普通の格好をしてきたからだ。
それだけならまだしも一時、誰も気づかなかったほど大月篤は変わった。
物凄くかっこよくなっているのだ。
今まで見向きもしないどころか避けてさえいた女の子達は目つきを変えて大月を見ていた。
そのかっこよさは女子だけに留まらず一部の男子にも有効だった。
ほとんど誰もが大月に熱い視線を送っていた。
大月は俺を見つけるとすぐさま俺に近づいてきた。
「久居!これで信じてくれたか?」
笑顔付きで言うもんだから俺の周りで見ていたやつの中で失神するやつもいた。
すご過ぎる・・・。
「・・・はい。信じました、けどどうして俺なんですか?俺よりいいやつはいっぱいいるのに。」
「理由なんてない。俺は久居尚弥という人物を好きになったんだから。」
ますますなんで俺なのか不思議に思ったが大月の熱の篭った視線に何も言えなくなってしまった。
手や背中に汗を掻いてきた。
今や、周りの視線は俺と大月に注がれていた。
興味津々といった好奇の目だ。
俺はそれに気づいて気まずいといったように周りを見た。
その間に大月は俺に近づいてきて、俺の顎を取ると軽くキスをした。
場の空気が一瞬凍り、唇が離れるとわっと沸いたようにざわざわとし始めた。
だが俺には周りの声なんて一切聞こえていなかった。
脳の機能が停止し、真っ白状態だ。
大月は再びゆっくりと近づくとこう言った。
「俺がここまでしたんだからこんぐらいは許せよな。」
そう言って踵を返すと人ごみの中を去っていった。
初めてのキスでショックを受けていた俺はただ呆然と突っ立っているだけだった。
しかし頭の隅で嫌じゃなかった自分がいるのを感じていた。
何故かって理由はわからない。
嫌じゃなかった自分に不安を感じ、ただ立ち尽くすしかなかった。



END


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06'4/6