いくつかのこと5


授業が終わり、ざわついた教室に入った。
楓が戻ってきたことに気がついた森本が楓の側によって来た。
「お前どうしたんだよ?」
心配そうな顔でそう言った。
「気分悪かったから保健室行ってきた。後でさっきの授業のノート見せて。」
軽く笑みを浮かべて森本に言った。
「・・・おう。」
納得し切れないといった様子でそう言うとノートを取りに自分の机へ戻った。
そしてすぐに戻ってくると楓にノートを差し出した。
「何か悩み事があるなら俺に相談しろよ?」
誤魔化せなかったらしく森本はそう言った。
いつになく真剣な顔をしている。
「わかった。今はまだ言えそうにないから言えるときになったら言うよ。自分で頑張ってみる。」
森本を心配させないように笑顔で言った。
「吉永がそう言うなら・・・。」
森本はそれ以上何も言わずにいた。
楓はそれ以上追求してこなかった森本に心の中で感謝して、急いでノートを書き写した。
ノートを書き写し、森本に返したのと同時に最後の授業の始まりのチャイムがなった。
森本にお礼を言って自分の席に戻った。
今の時間の授業は退屈で余計なことばかり考えてしまう。
昼の雪斗と風間の密会はなんだったのかとか、昨日自分にしたことは気まぐれだったのか。
しかし気まぐれで男は抱けないだろう。
やっぱりあの告白は本当なのか?
雪斗の熱い吐息と優しく撫でる手の感触を思い出し、赤面してしまった。
授業中なので誰も自分に気がつく人がいないことに楓はホッとした。
それと同時になぜあのことを思い出して興奮してしまうのかということに愕然とした。
男にあんな強姦まがいのことをされて青褪めることはあれど顔を赤らめることはないだろう。
それに確かに男相手に感じてしまった。
もしかして実は自分で知らなかっただけで男もいけるのかもしれない。
そう考えるとぞっとした。
いや違うな、男なんて絶対無理だ。
頭を振って自分自身に否定する。
考えただけで気持ち悪くて吐きそうだ。
だったら雪斗のときもそうならなければならなかったはず。
しかしむしろ感じてしまっていたということに楓は戸惑いを隠せなかった。
楓の考えは纏まらず同じ質問を繰り返すばかりで先に進めなかった。
色々と考えているうちに呆気なく授業は終わり、放課後になった。
帰宅部である楓はさっさと帰ってしまおうと鞄に荷物を詰めると勢いよく席を立ちクラスメイトに挨拶を交わすと教室を出た。
そこで偶然にも雪斗と出くわしてしまった。
今、保健室から帰ってきたらしい雪斗は楓の顔を見るとすぐに顔を逸らしてしまった。
昨日はあんなに好きだと言っていたのに素っ気無い行動にむかつきを感じるのと共にショックにも感じた。
そのまま過ぎ去ろうとした雪斗を教室に入っていくまで見つめていた。
すると入る前に雪斗に見られ、見ていたことがばれるとその場を走り出した。
自分で近寄るなとか酷いことを言っておきながら自分のほうが未練がましい顔で雪斗を見ていたんだと思うとなんともいえない気持ちになった。
苛立ちや恥ずかしさなどが入り乱れ、楓を困惑させた。
学校の正門を出てしばらくした道の途中でいきなりしゃがみこんだ。
「何やってんだよ、オレ。」
自分を蔑むように言った。
目頭が熱くなり必死で涙を堪えた。


「楓!!」


今一番聞きたくない、だけど聞きたくもある声が楓の耳に届いた。
楓の後ろで荒い息を繰り返す人物がいる。
その正体が誰だかわかっている楓はしゃがんだまま動けないでいた。
「なんで・・・」
雪斗が息も切れ切れに呟いた。
「なんで、あんなに泣きそうな顔してたんだよ。」
その言葉に楓は自分の唇を噛んだ。
自分の心を落ち着かせるとその場に立ち雪斗がいる反対方向を見つめながら言った。
「泣きそうな顔なんてするわけないだろ。見間違えたんじゃないのか。」
「じゃあ、何で今、楓の声が震えてるんだよ?」
「そんなの気のせいだ!」
「じゃあこっち見てよ!!」
雪斗に肩をつかまれそのまま雪斗の方を向かされた。
「やっぱり・・・泣いてるじゃん。」
楓の頬に一筋の涙が流れた。
「そんなの欠伸してたからだ!」
言い訳をして涙を制服の袖で拭った。
しゃがみこんで欠伸をする奴なんて早々いないだろうが、それくらいしか言い訳が見つからなかった。
「あそこに公園あるからあそこでちょっと話そうか。」
雪斗にそう促され、大人しく雪斗の後に従った。
小さな公園にしては大きめのベンチに二人して座った。
二人の間には人一人分くらいのスペースが空いている。
ベンチに座ったはいいがどう切り出そうかと二人とも口を噤んでいた。
暫くして最初に切り出したのはやはり雪斗だった。
「今日保健室にいたのって昨日のせい?」
どうやら昨日楓とやったことを気にしているようだ。
心配そうな顔で楓を見つめている。
学校一の人気者だけにその顔は凶悪的に可愛い。
思わず違うと叫びそうになったが素直になれない楓はそっぽを向いてそうだよと言った。
「ごめん。無理させたことは謝るよ。でも抱いたことは謝らない。楓を好きだって気持ちは嘘じゃないから。」
その言葉に楓は自分の顔が赤くなったのがわかった。
火がついたように熱くなっている。
しかしふと風間のことが思い出され熱が一気に引いていく。
「嘘つくなよ。」
そっぽを向いた状態で雪斗に向かってそう言った。
「・・・え?」
楓の突き放すような冷たい物言いに呆然とする。
「風間と付き合ってんだろ?知ってるんだよ。昼休み二人であってたの。」
声が震えるのを押さえながら楓は述べた。
まるで恋人同士のような二人の映像が頭の中に浮かぶ。
「今日の昼休み、見てたの?」
雪斗は驚いたように言った。
「二人で好きだの何だの言ってたじゃねぇーか!!」
楓は少し声を荒げて言った。
「それって・・・」
雪斗がくすくすと笑い始めた。
「何笑ってんだよ!!」
とうとう我慢しきれず雪斗の方を見て怒鳴った。
「ごめん。嬉しくて・・・それって嫉妬だよね?」
しっと・・・?
楓は頭の中でその言葉を反芻した。
何度かその言葉を頭の中で唱えて、ようやくその意味がわかると顔を赤くしたり青くしたりしながらなんと言い返そうか言葉を探す。
「ば・・それは・・違・・」
「違うの?」
雪斗は目をうるっとさせ、可愛らしく首を傾けそう聞いた。
楓が嫉妬したのだと確信を持って、わざと可愛い子ぶって聞いたのだ。
女子供に弱い楓は見事にその仕草にやられはっきりと否定できなくなった。
「うぁ、その、」
「嫉妬、してくれたんだよね。嬉しいなぁ。」
感慨深そうに一言そう言うと風間との関係を語り始めた。
「英彦は僕の従兄弟なんだ。」
「従兄弟!?」
「そう、僕の母親の兄の子供が英彦。近くに住んでたから幼馴染でもあるんだ。生まれた頃からいつも一緒だった。」
従兄弟と言われれば納得できる。
顔の系統が似ているからだ。
自分の顔に自身持ってそうなところも似ていると楓は思った。
「でも好きだとか言ってただろ。」
従兄弟でもあんなに堂々と好きだとか言い合えないと思う。
むしろ向かい合って好きだとか言い合ってるのは異常な気がした。
「僕達生まれたときから一緒にいるから双子みたいな感じでね。自分の分身みたいなもんなんだ。」
英彦に対する好きと楓に対する好きは別物だよ、と雪斗は続けた。
「そう・・・なんだ。」
気が抜けたようにそう漏らす。
「僕は楓が好きだよ。楓は僕のこと好き?」
真直ぐな眼差しで問い詰める。
さっきまでのやり取りで楓が雪斗のことを嫌いじゃないことは明白で後は楓の口から求めるせりふが出て来るのを待つだけであった。
「お・・れは・・・」
茹蛸のように顔を真っ赤にさせている楓はいつまでも口をもごもごとさせている。
雪斗はひたすら待っていた。
もごもごしていた楓はやけになったといった感じでようやく言った。
「〜〜!〜〜!あ〜もう!そうだよ!好きだよ!!雪斗のことがいつの間にか好きになってたよ!」
まるで色気のない告白だったが雪斗にとっては十分な告白だった。
感極まって楓に勢いよく飛びついた。
「すっごく嬉しい!!僕も好きだよ!」
いきなり飛びつかれてビックリした楓だがゆっくりと自分より小さい背中に腕を回した。
雪斗のファンにばれたら袋叩きだろうなとか、やっぱり俺が下のままなんだろうかとか雪斗の温もりを感じながら考える。
たぶんまだまだいっぱい問題があるんだろうが今このときだけは考えるのを止めにしようと雪斗の温もりだけに意識を集中させる。
二人の抱擁は雪斗が楓にセクハラして怒鳴られるまで続いたのだった。


END

ココまで付き合ってくださった方々。本当にありがとうございます!!
自分でも途中で何を書いてるんだかわからなく・・・ゲホゲホ
とにかくやっと終わらせることができました!考えてた設定とか
キャラの性格とか定まってなくて、読むのに大変だったかと思われますが
最後まで付き合ってくださった方、神様ですv感謝しても仕切れないくらい!
本当にありがとうございましたvvv
BACK NOVEL
06'6/29