強い男


身長182cm、焦げ茶色の短髪で切れ長の目をした男、倉敷鉄馬は薄暗い路地裏で三人の男に囲まれていた。
イカツイ顔した男達は卑下た笑いを浮かべている。
一人に対して三人もいるのだ。
負けるはずがないと思っているのだろう。
「たった三人だけか?」
鉄馬はつまんなさそうに溜め息を吐きながらそう言った。
そんな態度に男達は眉間に皺を寄せる。
三人に対して一人だけなのに余裕を持っている姿が男たちをイラつかせた。
「そんなこと言って後で後悔するんじゃねぇぞ!」
男達は鉄馬が虚勢を張っているのだと考え、からかうように笑ってみせた。
しかし鉄馬は口端を上げ不敵に笑った。
「お前らこそ後悔するんじゃねぇぞ。」
鉄馬の言葉を合図に男たちは鉄馬に殴りかかった。



それから5分も経たないうちに結果は見えた。
三人の男達は地面に倒れていたり蹲って呻いていたりさっきの威勢は何処へ行ったやら悲惨な状況だった。
対する鉄馬は無傷で平然としていた。
「これ以上酷い目に遭いたくなかったら二度と俺に近寄るんじゃねぇぞ。」
喧嘩前に放り投げた鞄を埃を払って脇に抱え、鉄馬はその場を後にしようとした。

「強いね。」

何処からか剣呑とした声が聞こえた。
男のような女のような中世的な声だった。
「誰だ!?」
鉄馬は声がした方に顔を向けた。
鉄馬がいた場所よりさらに暗いところから顔を出したのは鉄馬より5cm程低いであろう男だった。
優しげな風貌で好青年といった感じだ。
「何か用か?」
鉄馬は自分に話し掛けてきたこの男を警戒していた。
普通の奴なら鉄馬の見た目にビビッて話しかけてこようとはしない。
なのに目の前の男はビビるどころか顔に笑みを浮かべてさえいる。
「・・・そうだね。あると言えばあるかな。」
にっこりと優しそうな笑みを浮かべ、しかし意味不明なことを告げる。
「君を俺に頂戴。」
サラリと言ったその言葉は最初鉄馬には理解できなかった。
「どういう意味だ?」
男の言葉の真意を尋ねた。
この男は優男に見えて実は柔道や空手などの道場主で勧誘しているのだろうかと鉄馬は考えた。
しかし男の告げた言葉によってその考えが全く違うものであることを知らされた。
「簡単に言うと俺の手元に置いて一日中可愛がりたい。って感じかな。」
男がそう述べてやっと理解すると手の平に爪が食い込むのではないかというくらいギュッと拳を握った。
「気色悪い冗談言うんじゃねぇ!」
眉間に思いっきり皺を寄せて怒鳴った。
怒りを耐えているためか声が震える。
「君がそういうことを言うことは分かっていた。例え拒否されても君を俺のものにする。」
口の端を上げて言う男の言葉の力強さに自信が表れているように思われた。
堂々と告げた男に男としてのプライドを侵された気がした鉄馬は我慢できずに男に殴りかかろうとした。
しかしそれは叶わなかった。
いつの間にか後ろにいた黒い服を着た別の男に薬を嗅がされてしまったからだ。
薄れていく意識の中、鉄馬は目の前にいる男が嬉しそうでかつ愛おしそうな目をしているのを見たような気がした。



どれくらいの時間が経ったのだろうか?
鉄馬はゆっくりと目を覚ました。
未だにぼーっとする頭で周りを見回した。
見たことのない部屋にいる。
もしかしたら一生こんな部屋に入ることはないかもしれない。
一般庶民である鉄馬にとってホテルであったとしても見たことがないほど広く、豪華な部屋だった。
そんな部屋の窓側にあるこれまた豪華な天蓋つきベッドに自分が寝ている。
あまりにも現実離れしていて、もしかしたらまだ自分は夢見ているのではないかと思った。
上半身を起こした状態で声もなくぼーっとしていると人の気配を感じた。


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