強い男 2
目を向けると一人の男が高そうなソファに身を沈めていた。
その男に見覚えがあった。
鉄馬に「俺のものにする」宣言をした奇特な男だった。
「目が覚めた?」
男は足と手を組んだままの格好でそう尋ねた。
「アンタ何者だ?」
最初見たときはただの優男だと思ったが、この部屋を見る限り只者ではない。
「タダの男だよ。それとアンタじゃなくて名前で呼んでくれるかな?俺の名前は千羽飛雄。飛雄って呼んでくれ。」
飛雄と名乗った男はそう言うとまた極上の笑みを浮かべた。
「何の目的で俺をこんなところに連れてきた?」
飛雄の言葉を無視し、さらに質問を重ねた。
飛雄はわざとらしくう〜んと唸って考える。
「理由絶対に言わなくちゃダメ?」
困ったような顔をしつつ上目遣いで鉄馬を見る。
普通の人なら男でも女でもドキッとするだろう。
しかし鉄馬は色事に無頓着なため当たり前だろうという感じで睨みつけた。
諦めたように飛雄は溜め息を吐いた。
「俺、男でも女でも強い奴が好きなんだよね。」
さっきの甘えたような声と打って変わって淡々と話し始めた。
「最近の奴らは弱い奴ばかりでさ、君が喧嘩していたのを見てコイツだって思ったね。今逃したらもう会えないって思って・・・」
語尾を濁して誤魔化すようににっこりと笑った。
「それで俺の人権を無視して誘拐したってことか?」
怒りを孕んだ口調で確認する。
「ま、そういうことかな。」
「ふざけんな!!」
他人事のように述べられキレた鉄馬はすぐさまベッドから降りると、勢いよく殴りかかった。
飛雄はソファから立つと鉄馬の前に立って目を瞑ると大人しく殴られた。
殴られた後さほど痛くなさそうにそれどころか嬉しそうに鉄馬の方に顔を向き直した。
「思った通り強いな。」
左頬を赤く腫らせた飛雄のキラキラした顔に鉄馬は身を後退させると気色悪いものを見たかのような顔で尋ねた。
「お前、マゾか?」
「・・・そうかもね。」
怪しげな笑みを浮かべ、鉄馬の不安を煽る。
「帰る!」
その場の空気に耐えかねて飛雄の側を離れるとドアの方へ向かった。
しかし押しても引いてもドアが開かない。
鍵が掛けられているようだ。
飛雄は鉄馬の後ろに立つと耳元で囁いた。
「君が俺のモノになってくれるならドアを開けてあげてもいいよ。」
傲慢な物言いだったがそれが酷く似合っている。
「誰がお前のモノになんてなるか!」
飛雄から離れると鉄馬は怯むことなくそう言い返した。
「いいよそれで。考えを改めるまでここにいればいいだけだからね。鉄馬くん。」
「何で名前を知ってるんだ!?」
飛雄は不敵な笑いを浮かべるだけで何も答えなかった。
「それじゃ、ゆっくりしていってね。」
さっきまで開かなかったドアはすんなり開き飛雄は扉の向こうに姿を消していった。
すぐに扉を開けようとしたがビクともしない。
奴の要求を呑まない限り自由の身にしてくれなさそうだ。
鉄馬は考えうる限りの脱出方法を考えるが鉄馬は頭が良い方ではないので良い考えが浮かんでこない。
とりあえず部屋の中を検索してみる。
最初に窓から外を覗いてみた。
階下には木々が茂りよく見えない。
ここは森の中か!?と突っ込みたくなるところをなんとか押さえた。
部屋についている扉を開くとそこはユニットバスになっていて「トイレ」といって部屋を出ることは無理そうだ。
「うぅ〜ん・・・」と唸ってみるが考えが浮かんでこず、早々に考えることを諦めた。
ソファに座りテレビを付けた。
娯楽になるようなものはテレビしかないので暇を潰すにはテレビを見るくらいしかない。
あまり面白くないバラエティ番組を見始めてしばらく経ったころ扉が開く音がした。
音のした方を向くとそこにはトレイに乗せられたホカホカのご飯を持った飛雄がいた。
自分のために持ってきたのだろうかと鉄馬は考えた。
考えてみればお腹が減ったような気もする。
「どーぞ鉄馬くん。」
そう言って飛雄は鉄馬の座っている前のテーブルにトレイを置いた。
屋敷の洋風な造りには似合わない和食ばかりがトレイに乗せてある。
ほかほかの白いご飯、具のたくさん入った味噌汁、色とりどりの肉じゃが。
和食好きの鉄馬にとってかなり嬉しい内容だった。
しかしだからといって安易に食べることもできない。
薬を使って俺をココに監禁したんだ。
薬が盛ってあったら洒落にならない。
警戒するが欲求には勝てない。
薬が入ってても死ぬようなものなんて入っていないだろうと高をくくってバクバクと食べ始めた。
洋風な造りには似合わない和食ばかりがトレイに乗せてある。
ほかほかの白いご飯、具のたくさん入った味噌汁、色とりどりの肉じゃが。
和食好きの鉄馬にとってかなり嬉しい内容だった。
見た目からしてそうだったがかなり美味しい。
へたなお店より断然美味しかった。
米一粒も残さずに食べ終わるとフーッと満足そうに溜め息を吐いた。
「美味しかった?」
鉄馬が食べているのをジーっとみていた飛雄は鉄馬が食べ終わったのを見て、そう尋ねた。
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