強い男 3
鉄馬が食べているのを静かにジーっと見ていた飛雄が鉄馬が食べ終わったのを見て、そう尋ねてきた。
「・・・まぁな。」
素直に言うのが恥ずかしく、お茶を啜りながら曖昧に答えた。
「ほんと?良かった☆全部俺が作ったんだよ!」
飛雄は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「!?コレ全部?作ってもらったとかじゃねぇのか?」
「俺が作った。」
飛雄は、はっきりきっぱりと言った。
鉄馬は驚いてポカーンと口を開けている。
こんなに豪華な部屋の持ち主なのだからてっきりお抱えのシェフとかがいるのだろうと思っていた。
「フフフ。そんなに驚いちゃって・・・可愛い。」
「俺にその言葉を言うんじゃねぇ!」
はっと我に返るとそう怒鳴った。
鉄馬にとって可愛いとは侮辱に値する言葉だ。
「ごめんごめん。でも満足して貰えて良かったよ。」
「ふん。」
鉄馬は照れくさそうにそっぽを向いた。
「デザートもあるんだ。甘いもの大丈夫?」
鉄馬は首を縦に振って答えた。
「じゃあ持ってくるね。」
そう言って部屋を出て行った。
飛雄が出て行ったのを確認するとフーッと溜め息をついた。
飛雄とはまだ会って間もないが、随分と鉄馬の世話をするのが嬉しそうに見えた。
珍しいペットでも飼っている気分なのだろうかと鉄馬は間違った考えを頭に浮かべ、その考えに少しばかり苛立ちを覚えた。
自分は愛玩動物ではない!そう心の中で憤ったが、自分はそんなに可愛らしいものではないと考え直す。
きっと金持ちの暇つぶしなり、気まぐれなりなどなのだろうと自己完結させた。
それからあまり時間が経たないうちに飛雄は戻ってきた。
戻ってきた飛雄はトレイのようなものを持っている。
その上には蓋をしたお皿が二つとカップが二つ、おそらく紅茶が入っているだろう大き目のポットが一つ置かれてあった。
「はい、鉄馬くん。」
そう言って手渡されたのはチョコレートでデコレーションされたケーキだった。
薄く削がれたチョコと一緒に金箔らしいものが乗っていた。
見るからに高そうだ。
「紅茶もどうぞ。」
そう言って飛雄はカップに紅茶を注ぐと鉄馬の前にあるテーブルに置いた。
「コレもあんたが作ったってことはないよな?」
あれほど本格的な料理を作ったんだ。
このようなケーキも作っていそうだ。
鉄馬は半信半疑で尋ねた。
「さすがにそれは・・・作りたかったんだけどね。」
「・・・あっそ。」
作りたかったということはこういうものも作れるということか。
鉄馬は飛雄の見た目からは考えられない特技に驚き呆れていた。
しかし純粋にすごいなぁと思いながらケーキにフォークを刺した。
「美味しい・・・。」
口に入れてすぐ、素直に言葉が出た。
「でしょ。俺が好きなお店のなんだ。気に入ってくれて嬉しいよ。」
飛雄は綺麗に笑って見せた。
「・・・。」
鉄馬はその笑顔を見ることができず顔を俯かせた。
男である飛雄に対し、綺麗だと思ってしまったことに戸惑っているようだ。
パクパクと無言でケーキを口に頬張っていた。
ゴクンと紅茶を一口で飲んでしまうと「どうも」と無愛想に言って飛雄にケーキが乗っていた皿とカップを渡した。
飛雄もケーキを食べ終え、紅茶を飲み干すとトレイに皿とカップを乗せた。
「じゃあまたあとでね。」
飛雄はそう言うと鉄馬の頬に軽いキスを落とし、トレイを持って部屋を出て行った。
「〜〜〜!!何しやがんだ変態野郎!!」
顔を真っ赤にしてキスされた頬を押さえるとベッドにあった枕を飛雄が出て行ったドアに向けて投げつけた。
枕はボフッという鈍い音を立ててドアに当たると床に落ちた。
確実に飛雄によって鉄馬は調子を狂わせていた。
「くそっ!!」苛立たしげにそう言うとベッドに横になった。
横になりこれからどうしようかと目を瞑り考えた。
「鉄馬くん。」
自分の名前を呼ばれはっと目を覚ました。
することもなくベッドに横になっているうちについ眠ってしまったらしい。
気付けば窓の外が暗かったのに明るくなっていた。
一体どのくらい寝ていたのだろうか?
鉄馬はそう思い辺りを見渡したが時間を知らせるようなものはパッとは見当たらなかった。
「目覚めた?外に遊びに行かない?」
飛雄は楽しそうに軽くそう言った。
鉄馬にとって思ってもみない言葉だった。
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