強い男 4


「マジで?外に行ってもいいのか?」
もう何時間も部屋に閉じ込められていて外が恋しくなっていた。
それに鉄馬にとって逃げるチャンスだ。
「どこに行きたい?」
「俺が行きたいところに連れて行ってくれるのか?」
そう聞くと鉄馬は自分の親しみ慣れた場所を言った。
上手くいけば逃げられる。
いや逃げてみせると決意を固めた。
「じゃあ、はいコレ。」
そう言って手渡されたのはTシャツとジーンズだった。
「何だよコレ?」
飛雄から服を受け取りつつも疑問を投げ掛けた。
「鉄馬くんずっと同じ服だからね。着替えたいかなと思って。」
確かに捕まったときのままの服装だった。
学校帰りに変な三人に絡まれて、そこを飛雄に捕まってしまった。
つまり制服のままなのだ。
平日のお昼頃に制服でウロウロするのも躊躇される。
恐らくそれの配慮もあるのだろう。
そう考えて鉄馬は素直に飛雄から服を受け取った。
「ついでにお風呂も入っておいでよ。一日中そのままだったから気持ち悪いだろう?」
そう言われ、部屋に備え付けてある風呂へと向かった。
鉄馬は簡単に体を洗い風呂を出て飛雄から受け取った服を着ると脱衣所から出た。
「良かったぴったりだね。」
風呂場から出た鉄馬は安心したように言った。
「それじゃあ行こうか。」
飛雄は鉄馬の姿を一通り見た後部屋を出た。
鉄馬はその後を追いかける。
部屋を出た瞬間鉄馬の目は点、口はパッカリと開いた状態になった。
鉄馬の眼前に広がる光景はまるで映画に出てくるようなものだった。
赤い絨毯が敷き詰められた廊下。
手の込んだ細工の手摺りがついた階段。
階段を下りるとすぐに玄関になっていて、上に吊るされているシャンデりアは大きく豪華だ。
こんな大きなシャンデリアが落ちてきたらひとたまりもないだろう。
まるで童話や映画などに出てくるお城の中のようだった。
「どうしたの?」
突然立ち止まった鉄馬に不思議そうな声でそう尋ねた。
「・・・なんでもねぇよ。」
素直に「驚いた」なんてことを飛雄に言いたくなくてぶっきらぼうにそう答えるとすぐに飛雄の元に向かった。
玄関に向かうのかと思いきや素通りをして奥の方にある扉へと向かった。
「外へ出かけるのではないのか?」と訝しげに思いながらも鉄馬の後を付いていき扉の中に入った。
そこには3台もの車が置いてあった。
鉄馬は車には詳しくないが3台とも高そうなのが分かった。
一人で3台も所有しやがって・・・一家に一台で十分だろうがなどと鉄馬は妙なところに腹を立てる。
その横で涼しい顔で今日はどれに乗ろうかと飛雄は考えていた。
「今日はこれにしようかな。」
そう言って一番左端に有った黒い車に向かった。
「鉄馬くんは助手席に乗ってね。」
助手席のドアを開けて鉄馬に座るように勧めた。
複雑そうな顔をして鉄馬は助手席に座った。
飛雄は鉄馬が座ったのを確認するとドアを閉め、運転席に向かった。
飛雄も車に乗り込むとすぐに発進する。
飛雄がリモコンを操作するとシャッターが自動で開いた。
それにもまた心の中で「すげー」と鉄馬は感動した。
「ねぇ、鉄馬くん。他に行きたいところとかない?」
飛雄が話しかけてきた。
「別に。」
「何か食べたいものとかない?」
「別に。」
「何か欲しい物とかない?」
「別に。」
飛雄は鉄馬の淡々とした受け答えにめげずに質問を繰り返す。
「じゃあさ、鉄馬くんの行きたい場所に行ったら次は俺の行きたい場所に行って良い?」
「別に。」
鉄馬は今から行く場所で逃げるつもりなのでその後の事なんかどうでもよかった。
だから同じように素っ気無く返事を返す。
飛雄は曖昧ながらも鉄馬から了解を得たため満面の笑みを浮かべていた。
ほぼ飛雄よりの一方的な会話をしている間に目的の場所に着いた。
「着いたよ。」
飛雄は設備の整った駐車場に車を置くと颯爽と降りた。
「で、どこに行きたいの?」
飛雄に問われ「あっち」と素っ気無く指を指した。
そして何も言わず歩き出した。
その一歩後ろをニコニコと雄飛は付いて行く。
駐車場から数分歩くと大通りに出た。
平日のお昼頃だというのに人が多い。
「うわぁ、人が多いのって苦手なんだよね。」
飛雄は鉄馬に聞こえるようにぼやいた。
しかし鉄馬はそれに応対することなく歩を進める。
それも早足で、だ。
「ちょっと待ってよ。」
鉄馬の早足に少し焦った表情を見せ小走りで後を付いてくる。
しかし人に遮られ鉄馬と雄飛の間に距離ができた。
それをチラッと見た鉄馬はチャンスだと角を曲がると走り出した。
飛雄も慌てて角を曲がったがすでに鉄馬の姿はなかった。




BACK NEXT NOVEL
06'9/30→07'5/30変更