強い男 5
しばらく走った後、後ろを見ると飛雄が着いてきている様子はない。
「やった、逃げ切った!」
鉄馬は少し息を切らしながら嬉しそうにガッツポーズをして見せた。
人のいない裏路地に入ると足を止め一呼吸をして壁に凭れ掛かった。
「ふっ、はは!あいつ間抜けだな!逃げないとでも思ってたのかよ?」
あまりにも簡単に逃げることができたことに笑いが込み上げてくる。
軽く笑った後、見つからないうちにできるだけ遠くに逃げようと行動を開始した。
裏路地をさらに奥の方へと進んでいく。
人目につくと居場所がばれるかもしれないという配慮だった。
見慣れた道をどんどん進んでいく。
目的もなく歩いているのも疲れるだけなので、家に帰るかと足を家へ向けた。
「どこに行くのかな?」
突然後ろから声を掛けられた。
聞き覚えのある声に緊張で身体が強張る。
「なんで・・・?」
振り向かずに問うた。
鉄馬は確かに撒いたはずなのにと信じて疑っていなかった。
なのにこんなにすぐに見つかるなんて・・・。
「君のことが好きだから。愛の力・・・かな。」
「ほざけ!」
ふざけたことを言う飛雄に向かって怒鳴る。
しかし屁でもないようにへらへらと笑う顔を崩さない。
「ほんとのことを言わねぇとぶっ倒すぞ!」
「いや〜ん、怖い。」
凄みを利かせると態とらしく怖がって見せた。
良い大人の男が裏声を出してくねくねしている様子は、例え顔が整っていても鉄馬にはキモいだけだった。
「でも、鉄馬くんになら殴られてもいいかな。」
それから真剣な目をしてそうのたまった。
「やっぱりお前は変態野郎だ。」
鉄馬は怪訝な顔をして一歩後退さった。
「そんな引かなくても。」
飛雄はクスッと笑った。
「普通は引くぞ。」
鉄馬は正論を述べたのだが飛雄は気にした様子もない。
それどころか衝撃的な言葉を告げた。
「ホントは鉄馬くんに発信機をつけてるんだ。」
しばし沈黙が続く。
「はぁ!?」
数秒たった後、鉄馬はかなりの動揺を見せた。
人として当たり前なリアクションだろう。
「いつの間に、どこに付けやがった!?」
体中を手で押さえながら探すがそれらしきものはみつからない。
「君のハートに・・・。」
飛雄はわざとらしく鉄馬の方に手のひらを向けて声を低くして言った。
「死ね!!」
間髪入れずに一刀両断する。
飛雄を睨みつけホントのことを言うように促す。
「君のその目に見つめられていたいけど鉄馬くんを置いて死ねないから正直に言おう。」
面倒臭いので敢えてふざけた部分は聞かなかったことにして次の言葉を待った。
「ジーンズのポケットの部分に金具がついているだろ。その中に仕込んであるんだ。」
それはボタンよりかなり小さいサイズだ。
「この中に!?嘘だろ?」
「友達が開発したんだ。凄いだろ?」
確かに凄い。
しかし、折角の凄い開発も使う人によっては持ったいないものである。
所謂、宝の持ち腐れというやつだ。
「まぁ、そういうわけで君は逃げられないからね。」
鉄馬は絶句した。
飛雄なら例えそんなハイテクな道具など使わなくても世界の果てに居ても何処までも追いかけられそうだ。
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NOVEL
06'10/7→07'7/14