強い男 7


「こんな高そうなの買う金ねぇぞ。」
「もちろん俺から鉄馬くんへのプレゼントに決まってるでしょ。」
ニコニコと笑って言った。
「そんな高そうなもん貰えるわけねぇだろ!」
思わず席を立ってそう怒鳴った。
高いものを貰うと悪いというより、その見返りが怖かった。
「俺が行きたい所に付き合ってもらうからね。そのお礼みたいなものだから。」
結局鉄馬は押し切られスーツ一式を貰うことになった。
シンプルなグレーのスーツは鉄馬を大人っぽく見せ、さらには色気を醸し出させている。
早速着替えさせられた鉄馬を見て飛雄は嬉しそうに微笑んでいた。
「やっぱり君に良く似合うね。これを頂くよ。そのまま着てていいから。」
飛雄は初老の男にカードを差し出した。
しばらくして紙袋を持って男が戻ってきた。
「こちらはお連れ様が着ていらっしゃったお洋服が入っております。」
鉄馬はそれを受け取った。
立派な紙袋に入っている洋服を見て不思議な気分になった。
「で、俺にこんな格好をさせてどこに連れて行きたいわけ?」
「行けばわかるよ。」
先程と同じように曖昧な返事が返って来た。
聞いてもそれ以上聞き出せないことを感じて鉄馬は問いたださなかった。
店を出て飛雄の車を置いた場所へと向かった。
二人正装で並んで歩いているとチラチラと周りから視線が送られてくるのがわかった。
「くそっ、見せ物じゃねぇぞ!」
気分が悪そうに鉄馬は言った。
「まぁまぁ。鉄馬君がかっこいいから見てるんだよ。」
「ふん!」
只の飛雄のお世辞にそっぽを向いた。
周りが見ているのは飛雄だと鉄馬は思っていた。
しかし飛雄の言うとおり鉄馬も見られていたことに本人は気づいていなかった。
駐車場に着いて早速車に乗り込む。
「どこ行くかなんて教えてくれないだろうから言っとくけど変なとこ連れて行ったらぶっ飛ばすからな!」
飛雄はクスリと笑って言った。
「鉄馬くんの言う変なところってどこかな?とりあえず俺が考える限りでは変なところではないと思うよ。」
「そ・・それならいいんだよ!」
鉄馬は変なことを考えているように思われてバツの悪そうな顔をしてそれだけ言った。
しばらくして着いた先は飛雄の家と変わらないくらいの豪邸だった。
「今日は友達の誕生日でね。パーティに誘われていたんだ。」
玄関先に車を停めると執事らしき人たちが出てきて車の扉を開けてくれた。
飛雄は車の鍵を執事の一人に預けると中へと入っていった。鉄馬も慌ててその後に付いていく。
「すげ〜・・・、ここも金持ちだな。」
キョロキョロと辺りを見回してボソッと言うと鉄馬はほーっと溜め息を吐いた。
「ふふ、驚いてもらえて嬉しいよ。」
「ふん!」
鉄馬は自分の一般人丸出しの態度を恥ずかしく思い顔を真っ赤にした。
それから徐々に飛雄に自分の恥ずかしいところ見られ悔しく思い始めた。
通路を真直ぐに歩いていくうちに大広間のある場所に着いた。
またもや執事が大きな扉を開いた。
中では正装した紳士淑女が楽しげに会話をしていた。
なかでも人の輪ができているところがあった。
「あれが今日の主役、長岡京夜だよ。」
見るとかなり雄くさい立派な青年が女に囲まれて楽しそうにしている。
「京夜!」
飛雄は気軽に名前を呼ぶと輪の中に入っていった。
「飛雄!よく来たな。」
飛雄の姿を確認すると女たちそっちのけで飛雄の元へ駆け寄った。
「当たり前だろ。親友の誕生日なんだから。」
かなり親しそうに話し合っている。
周りは話しかけたいけど話しかけられないといった感じだ。
「・・・俺、来た意味有るのか?」
鉄馬は所在無さげにぼーっと突っ立ていることしかできない。
「あなた飛雄様の何?」
突然3人の女の人に話しかけられた。
皆バッチリメイクでなかなか美人な人ばかりだ。
スタイルも良い。
しかしどうやら鉄馬の存在を面白く思っていないらしい。
「・・・ただの知り合いですけど。」
まぁ、間違っていないだろう。
まさか誘拐されて告られたなどとは言える訳がない。
「知り合い?どこか名のある家の出の方?」
どこか柔らかな物言いになった。
しかし鉄馬の次の一言で先程とは比べ物にならないほどの喧のある言い方になった。
「いや、極普通の一般家庭育ちだけど・・・」
一瞬で女の人たちは眉間に皺を寄せる。
美人の顔も台無しだ。
「はぁ?なんでそんな人が雄飛様と一緒にいるの?」
「あんたが付きまとってるんでしょ?」
「迷惑なさっているのよ!庶民はすぐに家に帰りなさい!!」
交互で罵りの言葉を言われる。
勝手な物言いに鉄馬はキレた。
「はぁ?何であんたたちにそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ?」
鉄馬の”俺だって帰れるもんならさっさと帰ってるっつぅーの!”という言葉はさっきまで他の奴と喋ってたはずの奴に遮られた。
「彼は私が頼んで来てもらったんだけど私の友人に何か?」
飛雄はにっこりと微笑んで言ったがどこか恐ろしかった。
僅かにキレているようだ。
「あ、いえ。そんなつもりでは・・・。」
それに気付かないのか女の人たちは顔を赤くしながら去って行った。
遠くで”飛雄様に話しかけられちゃった!”と言う言葉が聞こえてきた。
飛雄は一体何者なのか?という疑問が浮かぶ。
「ごめんね。目はなしちゃって・・・俺の側から離れないで。ね?」
男に可愛らしく”ね?”と言われても気持ち悪いななどと思いながらもさっきのようなことがあるのは面倒臭いのでしぶしぶといった感じに鉄馬は頷いた。
「話の途中にごめんね。この人、俺の大切な人なんだ。」
飛雄は京夜の元に行くとあっさりとそう紹介した。
「おいっ!」
鉄馬は焦って飛雄に向かって怒鳴ろうとしたが京夜によって遮られる。


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'07 1/4→07'7/14